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名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)207号 判決 1988年3月04日

原告(反訴被告)

豊川正弘

外三二名

右三三名訴訟代理人弁護士

蜂須賀憲男

永富史子

井上哲夫

被告(反訴原告)

株式会社日本教育事業団

右代表者代表取締役

松田洋一

右訴訟代理人弁護士

佐山厚三

主文

一  被告(反訴原告)は別紙認容債権目録原告氏名欄記載の原告(反訴被告)らに対し、同目録金額欄記載の金員及びそのうち同目録内金一記載の金員に対する昭和五八年九月一日から、同目録内金二記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告(反訴被告)らのその余の本訴請求をいずれも棄却する。

三  被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用(取下により終了した原告らに関する部分を除く)は、本訴反訴をつうじてこれを六分し、その一を第一項記載の原告(反訴被告)らの負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

六  原告(反訴被告)西和次、同野末隆、同大河敏宏、同奥野昭及び同永田寛治の本訴は、訴の取下により終了した。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴関係

1  請求の趣旨

(一) 被告(反訴原告)は原告(反訴被告)らに対し、別紙支払総額等一覧表1差引合計欄記載の金員及びこれに対する昭和五八年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(二) 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 本案前の答弁

主文第六項と同旨。

(二) 本案の答弁

(1) 原告(反訴被告)らの本訴請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は原告(反訴被告)らの負担とする。

二  反訴関係

1  請求の趣旨

(一) 原告(反訴被告)らは被告(反訴原告)に対し、各自、金三五九七万〇八〇〇円及びこれに対する昭和五八年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告(反訴被告)らの負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) (本案前の答弁)

本訴反訴をいずれも却下する。

(二) (本案の答弁)

(1) 被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

第二  当事者の主張

一  本訴関係

1  請求原因

(一) 本訴原告(反訴被告、以下「原告」という。)らは、いずれももと本訴被告(反訴原告、以下「被告」という。)の従業員であり、その所属及び地位は別紙所属・地位一覧表記載のとおりであった。

(二) 被告は、原告らに対し、それぞれ別紙支払総額等一覧表1の解雇日欄記載の日(いずれも昭和五八年)に懲戒解雇の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。

(三) 本件解雇は、別紙就業規則記載の懲戒解雇事由に該当しない違法、無効なものであるが、原告らは、本件解雇について通常解雇の限度でその効力を承認する。

(四) 従って、被告は、原告らに対し、本件解雇は労働基準法(以下「労基法」という。)二〇条一項但書後段所定の労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合ではないから、右解雇の意思表示に際し、同法二〇条一項本文により別紙支払総額等一覧表1の解雇予告手当欄記載の解雇予告手当を支払うべきところこれらを支払わないし、かつ、同一覧表の賃金欄記載の金員から同一覧表の既払金欄記載の金員を控除した右解雇日までの当月分の未払賃金も支払うべきところこれらも支払わない。

(五) よって、原告らは、被告に対し、別紙支払総額等一覧表1の解雇予告手当欄記載の解雇予告手当、同一覧表の附加金欄記載の労基法一一四条による附加金及び同一覧表の賃金欄記載の金員から既払金欄記載の金員を控除した未払賃金の合計である同一覧表差引合計欄記載の金員並びにこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年九月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)、(二)の事実は認める。

(二) 同(三)ないし(五)を争う。

3  被告の主張

(一) 原告らの任意退職及び本件解雇に至る経緯

(1) 被告は、教材の販売等を目的とする会社であり、昭和五七年九月一〇日、株式会社学習研究社(以下「学研」という。)との間で同社の供給する教材「学研ホームラーン」を販売する代理店契約を締結し、以後同社の代理店として右教材の販売及び学習塾の経営をしてきた。

(2) ところが、昭和五八年一月一二日、東京都大田区の学研本社において、学研社長古岡滉、同シート事業部長高尾有吾、同名古屋支社長川村正孝及び原告豊川正弘(以下「原告豊川」という。)は、被告の京都、名古屋、豊橋及び三重の各支社のシェアの乗っ取りを計画し、営業社屋、営業部門従業員、教室、インストラクター及び生徒の横取りを謀議した。

(3) 原告豊川は、右謀議に基づき、同年一月二六日、名古屋市内の都ホテル橘の間において、原告高森茂樹(以下「原告高森」という。)、同岸邦男(以下「原告岸」という。)、同後藤英治(以下「原告後藤」という。)、同渡辺勲(以下「原告渡辺」という。)及び同小林通和(以下「原告小林」という。)並びに同じく被告の従業員である訴外和賀正英(以下「和賀」という。)、同品田謙二(以下「品田」という。)及び同芝崎智也(以下「芝崎」という。)に対し、右被告のシェア乗っ取りに関する謀議の結果を報告して協力を要請し、右原告高森以下八名はこれを了承した。

(4) 同年二月二日、学研本社において、原告豊川も出席のうえ学研の全国五一か所の支社の支社長会議が催され、その席上、前記被告のシェア乗っ取り計画が発表され、古岡社長から各支社長に対し右計画に協力するよう指示がなされた。

(5) 同月七日、前記都ホテル橘の間において、原告豊川及び前記(3)の高森以下八名の被告従業員が集合し、原告豊川から右学研支社長会議の結果が報告され、被告シェア乗っ取りの具体的行動計画を立案した。

(6) 右具体的行動計画に基づき、右原告豊川以下九名は、同月一一日夜及び同月一二日早朝、被告の中部総局、名古屋、京都、豊橋、三重の各支社の従業員合計一〇四名に対し、同月一二日午前一一時学研名古屋支社に集合するよう勧誘し、同日午前一一時、被告のシェア乗っ取りに協力する原告らを含めた被告従業員九九名が学研名古屋支社に集合し、学研側から高尾シート事業部長、川村名古屋支社長及び平山シート事業部課長が出席のうえ、被告シェア乗っ取り計画が発表された。

(7) 被告は、同月一一日ないし一二日、原告豊川、原告高森及び原告岸に対し、前記(5)、(6)の行為について被告に対する妨害行為、不利益を与える行為として本社総務部付を命じたが、右三名はこれを拒否ないし保留した。

(8) 原告鈴木康代(以下「原告鈴木」という。)は、原告豊川の指令を受けて同月一二日以降右被告シェア乗っ取り計画について積極的に行動し、被告社長松田洋一(以下「松田社長」という。)の指示を全く無視し、勝手に行動して被告の職場秩序を乱したので、被告は、同月一二日、本社総務部付を命じた。

(9) 原告小林、同後藤、同村山弘幸(以下「原告村山」という。)、同前田章彦(以下「原告前田」という。)、同菊田勝洋(以下「原告菊田」という。)、同吉良俊英(以下「原告吉良」という。)、同吉田章雄、同雨森悦裕(以下「原告雨森」という。)、同今永善明(以下「原告今永」という。)、同奥村幸一、同太田廣太郎(以下「原告太田」という。)、同光藤昭夫(以下「原告光藤」という。)、同窪添満(以下「原告窪添」という。)、同高向文男(以下「原告高向」という。)、同長谷川一男(以下「原告長谷川」という。)、同永田寛治(以下「原告永田」という。)及び訴外井上照文(以下「井上」という。)は、同月一九日午前八時三〇分ころ、原告豊川、同高森、同岸及び訴外芝崎と共に、被告京都支社に赴き、被告従業員鍛治谷隆人(以下「鍛治谷」という。)他六名に対し、暴力を用いて被告会社応接室に連行し、監禁するなどしてその営業活動を中止させ、被告従業員太田成彦に対し加療一週間を要する上肢圧迫挫創の傷害を加え、同近藤克彦(以下「近藤」という。)に対し被告京都支社の全部の鍵を差し出すよう強要のうえ懐に手を入れる等の暴行を加えるなどして、同日午後〇時.警察官が救出に来るまで暴行、監禁を継続し、被告の営業活動を全く不能にした。

(10) 原告山村龍実(以下「原告山村」という。)は、前記被告シェア乗っ取り計画に加担し、被告大阪支社において、松田社長の指示を全く無視して勝手に行動し被告の職場秩序を乱したので、被告は、同月一四日付で本社総務部付を命じたが同人はこれを拒否した。

(11) 原告服部雅治(以下「原告服部」という。)、同伊藤正則(以下「原告伊藤」という。)、同杉田謙一(以下「原告杉田」という。)、同渡辺、同細川美代子(以下「原告細川」という。)、同井出薫(以下「原告井出」という。)、同西和次(以下「原告西」という。)、同野末隆(以下「原告野末」という。)、同大河敏宏(以下「原告大河」という。)及び訴外浅原清志(以下「浅原」という。)は、原告豊川、同高森、同小林、訴外芝崎、同井上及び同鈴木富貴雄(以下「鈴木」という。)と共に、同月二四日午後三時四〇分ころ、被告豊橋支社に赴き、被告従業員鍛治谷他二名に対し、暴力を用いて床に正座させ、その周囲を全員で取り囲み、大声、怒声、脅迫的言辞をもって同支社からの退去を強要し、被告従業員平田義衛(以下「平田」という。)に対し灰血を投げつけて全治四日間の全額部打撲傷の傷害を負わせ、同人に対し同支社の全部の鍵を差し出すよう強要し、同月午後五時三〇分に至るまで同支社を占拠し、営業活動を中止させた。

(12) 原告吉田雅春、同杉木宏明(以下「原告杉木」という。)、同奥野昭(以下「原告奥野」という。)、訴外奥村弘及び同三永川邦栄(以下「三永川」という。)は、前記被告シェア乗っ取り計画に加担し、被告の職場秩序を乱し、併せて同月二四日付の名古屋支社への出社命令に対しても無視して出社しなかった。

(二) 任意退職

(1) 原告豊川、同高森、同岸、同小林、同渡辺及び同後藤は、前記(一)の(3)のとおり昭和五八年一月二六日、前記都ホテルにおいて、学研の被告のシェア乗っ取り計画に協力することを謀議し、これにより被告を任意退職し、他の被告中部地区従業員を誘って、自ら独立して営業活動を行うことを決定し、同日以降においては右独立のために活動した。右原告豊川以下六名は、同日以降も退職届けを提出することなく、被告事務所にも従前どおり出社したが、これは、自己の意図を秘匿して被告の中部地区全事務所を乗っ取り、自らの事務所として使用することを目的としたものであって、原告豊川ら自らのための業務をなしたものであり、被告のための業務をなしたものではない。

(2) その余の原告らは、前記(一)の(6)のとおり同年二月一二日、学研名古屋支社において、原告豊川らの右独立計画に賛同し、同日以降、原告豊川の指示に従い、被告事務所において、原告豊川のために同原告の業務を遂行する趣旨で稼働した。右原告らも被告に対し退職届けを提出していないが、右のとおり同日以降被告の業務を遂行せず、原告豊川のために業務を遂行したことをもって、意思の実現により被告を任意退職したものである。

(3) よって、右(1)の原告豊川以下六名の原告らは同年一月二六日、その余の原告らは同年二月一二日をもって、それぞれ被告を任意退職したものであるから、原告ら主張の予告手当、附加金及び右退職日の翌日以降の賃金を支払うべき義務はない。

(三) 懲戒解雇

(1) 被告は、

(イ) 同年二月一五日、原告豊川、同高森、同岸に対し前記(一)(7)の行為を理由として、

(ロ) 同月一六日、原告鈴木に対し前記(一)(8)の行為を理由として、

(ハ) 同月一九日、原告小林に対し、同月二一日、原告前田、同村山、同後藤、同菊田、同吉良、同吉田章雄、同雨森、同今永、同奥村幸一、同太田、同窪添、同光藤、同高向、同長谷川、同永田に対しいずれも前記(一)(9)の行為を理由として、

(ニ) 同月二一日、原告山村に対し前記(一)(10)の行為を理由として、

(ホ) 同月二四日、原告服部、同伊藤、同杉田、同渡辺、同細川、同出井、同西、同野末、同大河に対しいずれも前記(一)(11)の行為を理由として、

(ヘ) 同年三月三日、原告吉田雅彦、同杉木、同奥野に対しいずれも前記(一)(12)の行為を理由として、

それぞれ懲戒解雇の意思表示をした。

(2) 原告らの前記(一)の各行為は別紙就業規則記載の被告の就業規則四二条(懲戒解雇の基準)の一、三、五ないし一〇、一二、一四の各号に該当するから右懲戒解雇は有効である。そこで、被告はまず原告らの任意退職を、二次的に懲戒解雇を主張する。

(3) そして、被告の原告らに対する右解雇は、右のとおり労基法二〇条一項但書後段所定の労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合に該当するから、原告主張の予告手当を支払うべき義務はなく、従って附加金の支払を命じるべき場合でもない。

(四) 賃金支払

(1) 被告は、原告豊川、同高森、同岸、同小林、同渡辺及び同後藤を除くその余の原告らに対し、昭和五八年三月七日、別紙支払総額等一覧表1の解雇日欄記載の日までの賃金を支払った。

(2) 学研は、同年一月二六日、被告に造反して独立する被告社員に同年二月分の賃金を支払う旨約定していたが、同年三月九日原告ら全員に対し右賃金を支払った。

4  被告の主張に対する認否及び反論

(一) 認否

(1) 被告の主張(一)の(1)の事実を認める。同(2)の事実を否認する。同(3)のうち原告豊川他八名の被告従業員が都ホテル橘の間に集まったことは認め、その余を否認する。これは毎週行われている営業の定例会議であり、乗っ取りの謀議をしたものではない。同(4)の事実を否認する。同(5)のうち原告豊川他八名の被告従業員が都ホテル橘の間に集まったことは認め、その余を否認する。同(6)のうち、昭和五八年二月一二日、原告らを含めた被告従業員五十数名が学研名古屋支社に集合したことは認め、その余を否認する。これは、原告豊川らが被告から出社を拒否されたので、営業を継続するためやむなく学研名古屋支社に従業員を集めたものである。同(7)の事実を認める。同(8)のうち原告鈴木が本社総務部付を命じられ、同人がこれを拒否したことは認め、その余を否認する。同(9)のうち、被告主張の被告従業員が京都支社に赴いたことは認め、その余は不知ないし否認する。これは、被告東京本社から派遣された鍛治谷らが京都支社を占拠し、その営業活動を妨害したので、原告豊川は中部総局長代理としての権限に基づいて京都支社の業務を正常化するために部下と共に同地に赴いたものである。同(10)のうち原告山村が本社総務部付を命じられ、同人がこれを拒否したことは認め、その余を否認する。同(11)のうち、被告主張の被告従業員がそれぞれ豊橋支社に赴いたことは認め、その余を否認する。これは、豊橋支社の業務活動を正常化するため原告豊川らが自己の正当な権限に基づいて同地に赴き、鍛治谷らが業務活動を妨害しないように勧告したものである。同(12)の事実を否認する。

(2) 被告の主張(二)の(1)、(2)の事実を否認し、同(3)を争う。

(3) 同(三)の(1)の事実を認め、同(2)、(3)を争う。

(4) 同(四)の(1)のうち、被告が別紙支払総額等一覧表1の既払金欄記載の限度で賃金を支払ったことは認めるが、その余は否認ないし争う。被告には賃金の未払が残っている。同(2)の事実を否認する。

(二) 反論

(1) 被告は、学研の教材を販売し学研の学習教室の運営を行うことを目的として設立され、学研から多大の資金援助も受けていた実質的な学研の子会社であり、対外的にも学研グループのマークやバッジを使用し、従業員募集に際しても学研の子会社である旨表明し、学研の社会的信用を基礎として発展してきたものである。ところが、松田社長は、昭和五七年夏ころから学研以外の商品の取扱を画策し、昭和五八年二月一一日、被告本社で行われた支社長会議においてこの方針を発表し、学研以外の商品を販売するよう指示した。右支社長会議に出席していた原告豊川、同高森及び同岸の三名は、被告が学研から離脱することになれば従業員の動揺も大きく、学研の信用を失えばこれまでのような発展拡大を継続することは困難になり、また、学研から多額の負債の返済を迫られれば被告の存立も危うくなるものと判断し、松田社長の右方針に反対の意向を表明して右支社長会議を退席し、各自の支社に戻って平常勤務についた。これに対し、松田社長が、同日午後八時ころ、突然中部総局に現れ、原告豊川に対し、同日付で本社総務部付を命ずる旨の辞令を交付しようとしたため、原告豊川がこれに対する態度を保留したところ、前記のとおり懲戒解雇されたものであり、原告豊川らは自己の職務を忠実に遂行しようとしたにすぎない。

(2) 原告豊川、同高森、同岸、同鈴木、同山村らに対する懲戒解雇の前提となった配転命令は、被告の業務上の必要とは関係のない不当なものであり、また、被告は各支社間に殆ど人的交流がなく、希に配転を命ずる場合でも本人の同意を得たうえで最低一か月の準備期間を与えるるのが通例なのに、本件においては、本人の同意を得ようという努力も説明もなく準備期間も与えず、さらに、右原告らはいずれも当地に本拠を構え、転居を予想しておらず右配転命令は同人らの生活関係を根底から覆すものであり、しかも、管理職及び営業職から総務部門への職種を異にする配転であり、結局右配転命令は解雇を目的とする嫌がらせにすぎない。従ってこれを拒否したとしても懲戒解雇事由には該当せず、右原告らに対する本件解雇は労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇とはいえない。

(3) その余の原告らに対する懲戒解雇の直接の理由となった京都支社及び豊橋支社における紛争は、被告本社から出向してきた平田らが右各支社従業員に対し様々な嫌がらせをしたため、原告豊川らの支援の下に右各支社の従業員である右原告らが正常な業務をさせるよう申し入れをしたにすぎないものである。従ってこれも懲戒解雇事由には該当せず、右原告らに対する本件解雇は労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇とはいえない。

(4) 被告は、本件解雇をするにあたり労基法二〇条三項所定の行政官庁の認定を受けていないものである。

二  反訴関係

1  請求原因

(一) 原告らは、いずれも被告の従業員であり、その所属及び地位は別紙所属地位一覧表記載のとおりであった。

(二) 前記一(本訴関係)の3(被告の主張)の(一)(原告らの任意退職及び本件解雇に至る経緯)、(二)(任意退職)と同旨。

(三) 原告らの右(二)記載の各行為は、学研と共謀のうえ、被告の事務所等施設を利用して被告と全く同一の方法により原告ら自身の営業活動を行い、あるいは暴力をもって被告の事務所を占拠し、さらには集団退職をするなどして、被告の営業活動の妨害及び被告の顧客、市場の乗っ取りをなしたものであり、原告らの被告従業員としての忠実義務に違反する債務不履行である(殊に、原告豊川は中部総局、同小林は名古屋支社、同渡辺は三重支社、同高森は豊橋支社、同山村は大阪支社の各責任者であり、商法上の支配人に該当し、強力な競業避止義務を負担する。)と共に不法行為も構成する。

(四) 損害

被告は原告らの右債務不履行ないし不法行為により次のとおり損害を被った。

(1) 学研教材販売額減少損

金六億五七二一万九六〇〇円

被告と学研との間の販売代理店契約は、半永久的なものであり、少なくとも昭和六七年八月三一日までは継続するものであったところ、原告らの右行為により学研商品の販売量が減少した。そのうち、昭和五八年二月から昭和六一年一月までの売上減少損害金。

(2) 学研教材関係生徒減少による入会金及び月謝収入減少損

金一〇億〇六五四万〇八〇〇円

原告らの右行為により、学研教材の販売が減少し、これにより右教材を使用する学習塾の生徒が減少し、これに伴い入会金及び月謝収入が減少した。そのうち、昭和五八年二月から昭和六一年一月までの減少損害金。

(3) 妨害行為による出捐諸経費

金一二五四万一五七四円

被告は、原告らによる店舗及び教室の乗っ取りから防衛するために他の被告従業員の派遣を迫られ、そのために右金員の出捐を余儀なくされた。

(五) よって、被告は原告らに対し、債務不履行ないし不法行為に基づき、右(三)の損害金のうち、学研教材販売額減少損金六億五七二一万九六〇〇円の内金二〇〇〇万円、学研教材関係生徒減少による入会金及び月謝収入減少額損金一〇億〇六五四万〇八〇〇円の内金五九七万〇八〇〇円及び妨害行為による出捐諸経費金一二五四万一五七四円の内金一〇〇〇万円の合計三五九七万〇八〇〇円並びにこれに対する昭和五八年二月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うことを求める。

2  原告らの本案前の主張

本件反訴は、民事訴訟法二三九条所定の本訴の目的たる請求または防禦の方法と牽連するとの要件を充足しない不適法なものであるから、却下されるべきである。

即ち、被告は、本件本訴において予告手当及び附加金の支払義務を免れようとしてその主張自体審理に耐えないような懲戒解雇の主張をしているものであり、本件反訴は、被告の右主張に即して原告らが学研と共謀のうえ被告の従業員の引抜、営業組織の奪取を敢行したとの主張を骨子とするものであり、その請求額が巨額であるのみならず主張そのものが荒唐無稽ともいえるものである。従って、本件反訴の提起は、未払賃金、予告手当及び労基法に基づく制裁的な附加金を請求する本件本訴の訴訟進行を妨げ、その審理の範囲を徒らに拡大させ、よって原告らの訴訟遂行を事実上挫折させようとするものであり、反訴に名を借りる権利濫用にも匹敵するものであるから、本件反訴は本訴と牽連性を有しないものというべきである。

3  請求原因に対する認否及び反論

(一) 認否

請求原因(一)の事実を認め、同(二)のうち前記一(本訴関係)の3(被告の主張)の(一)(原告らの任意退職及び本件解雇に至る経緯)及び(二)(任意退職)の事実についての認否は、前記一(本訴関係)の4(被告の主張に対する認否及び反論)の(一)(認否)と同旨。

請求原因(三)、(五)を争い、同(四)の事実を否認する。

(二) 反論

原告ら及び反訴被告らが、被告の店舗及び教室等を不法に占拠してそこで営業を行う計画など存在しなかったし、豊橋、京都両支社における事件は原告らの正当な勤務活動を故意に妨害した被告の派遣従業員に対する抗議行動である。従って、被告がその従業員を各地に派遣する必要が生じたとしてもそれは被告の経営政策の失敗に起因するものであるから、その派遣費用と原告ら及び反訴被告らの行為との間に因果関係はない。また、被告において学研商品の販売量が減少したのは、被告自身が他社商品を販売するという契約違反を犯したからであり、即ち、被告が他社商品を扱うことが公表されれば当然学研との専属販売契約は解除され、同社の商品を扱うことができなくなるのは確実であり、被告として学研の商品から手を引くことを選択したのであるから、その教材売上額が減少し、教室生徒数が減少したのも被告の行為による当然の帰結であり、仮に被告に何らかの減収があったとしても原告らの行為とは因果関係がない。

第三  証拠<省略>

理由

一本訴について

1  請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

2  被告は、本件解雇以前に原告らは任意退職している旨主張するので、まず、この点から検討することとする。

<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

(一)  被告は学習教材の販売等を目的とする会社であり、昭和五七年九月一〇日学研との間で同社の供給する教材「学研ホームラーン」を販売する代理店契約を締結し、同社の代理店として右教材の販売及び学習塾の経営をしてきたものである(以上の事実は当事者間に争いがない。)が、右代理店契約の内容は、被告が「学研ホームラーン」のみを販売するという専属販売契約であり、また、被告は、設立当初から学研の関係者を発起人、役員に加え、同社より多額の融資を受けてきたものであって、昭和五七年八月末日当時の同社に対する負債総額は約三億二〇〇〇万円に上っている等、両社の間には緊密な関係があり、被告の従業員や顧客に対しては学研の子会社である旨説明してきたこと

(二)  「学研ホームラーン」の販売実績は当初の間は好調であったが、昭和五七年一〇月ころが最盛期であり、これを境に売上は伸び悩み、被告は、右商品の陳腐化という要因もあって販売実績の維持は困難であるとの見通しを立てており、その一方で、同年一〇月から一二月ころにかけて、学研に対し、「学研ホームラーン」の販売手数料率(従前五〇パーセント)の引き上げを要請してきたところ、昭和五八年一月、学研からこれを拒否する旨の回答があったことなどから、同月中旬ころ、より利益率の高い学研以外の商品も販売してこれまでの学研一辺倒から漸次脱却する方針を固め、これに伴い新事業部構想要領を作成するなどして組織の改変を企図したこと

(三)  昭和五八年一月二六日、原告豊川、同高森、同岸、同後藤、同渡辺及び同小林並びに訴外和賀、同品田及び同芝崎は、名古屋市内の都ホテル橘の間に集合し(以上の事実は当事者間に争いがない。)、その席において、原告豊川は、被告中部総局及びその傘下の名古屋支社、豊橋支社、三重支社、京都支社の従業員を勧誘して被告から独立し、独自に学研と代理店契約を締結して同社の商品を販売する旨の独立構想を打ち出し、さらに、右構想について既に学研は了解済みである旨説明して協力を要請し、これに対し右原告高森他七名も賛同したことから、右独立構想の実現に向けて、立案、準備することとなったこと

(四)  同年二月七日、原告豊川を中心に前記(三)記載の中部総局幹部らが再び集まり、同月二日に開かれた学研支社長会議をうけて、右独立計画を学研の全面支援の下に貫徹することを再確認しあったこと

(五)  被告は同月一一日、被告におけるそれまでの営業実績及びこの先の方針を検討するため、東京本社に全国の各支社長を招集して支社長会議(営業戦略会議)を開催し、原告豊川、同高森及び同岸もこれに参加したが、被告松田社長は、右会議において、前記(二)記載の学研以外の他社商品の採用と新事業部構想による組織改変を発表し、右組織改変に伴う人事異動の辞令を交付する準備をしていたが、原告豊川は、被告が学研から離脱して他社商品を取り扱うことは学研の社会的信用を基盤としてきた顧客の離反を招き、従業員にも動揺を与える結果となるとの理由から反対の意向を有していたこともあって、この機会をとらえて前記(三)の独立構想を実行に移すことを決意し、右松田社長の方針に対して反対の意思を表明して右会議を途中で退席し、原告高森及び同岸もこれに同調して退席し、直ちに名古屋に戻って、同日夜から翌同月一二日早朝にかけて前記(三)記載の原告高森他七名の者と協力して中部総局傘下のほぼ全従業員を同月一二日に学研名古屋支社に招集するなどして、前記独立構想実現のための具体的準備活動を開始したこと

(六)  同月一二日、原告らを含めた被告中部総局傘下の営業関係のほぼ全従業員が前記原告豊川らの招集に従って学研名古屋支社に集合し、そこにおいて、原告豊川は、右従業員らに対し、前記(五)の支社長会議の顛末を説明して、学研から離脱することの危険性を説き、前記独立構想を発表して自己と共に近く設立する新会社に移籍して稼働するよう勧誘したうえ、右独立構想が具体化するまでの間、暫くは平静を保ち退職届も出さないように指示したこと、これに対し原告らを含めた右従業員らは、直属の上司である右原告豊川らの指揮、監督下にあったことから、この指示に従うことになったこと

(七)  同月一二日以降、原告豊川、同高森、同岸らの幹部は名古屋市内のホテルに事務所を置いて右計画の遂行にあたったが、これらを除く一般従業員は、後記京都支社、豊橋支社での紛争に加わったり、名古屋支社への出社命令を拒否したりしたものがあった他、豊橋支社が閉鎖されて勤務が困難になる等の情況もあったものの、概して平常のように出勤し、販売代金も従前通りの方法で入金し、また、本社への営業報告も提出して勤務を継続していたこと

(八)  被告は、学研が同社からの被告の離脱を察知して何らかの対抗措置を講ずることを危惧したことから、中部総局の責任者である原告豊川、豊橋支社長の原告高森及び京都支社長の原告岸の前記(五)の行動によって中部総局傘下の被告の組織が動揺することを防止し、かつ、被告組織のたて直しを図るべく、右原告らを本社総務部付に配置換えを命じたところ、右原告らはいずれもこれを拒否したため、これまでの一連の行動を理由に右原告らを同月一五日付で懲戒解雇するとともに東京本社から従業員を中部総局傘下の各支社に派遣して施設の管理、組織維持に努めたこと

(九)  ところで、被告は元来各支社の独立性が強く各支社の従業員の採用等の人事は概ね各支社長がこれを決し、中部総局傘下の支社については、更に原告豊川がこれら人事を含め営業一般についても監督、総括する一方、幹部職員等特別に事情のあるものを除き、本社と各支社間の人事異動もなく、相互の交流は薄かったことから、右のように突然派遣されてきた本社従業員の指揮命令等もとかく円滑を欠きがちであったうえ、右支社従業員らもこのような本社従業員に対して違和感を持つとともに、これまで個人的な信頼関係で結ばれていた右原告らが解雇されたことに対する反感や将来に対する不安の念などから、右派遣従業員と右各支社の従業員との間に軋轢が生じたこと、そして、同月一九日、京都支社において、同支社従業員並びにこれを支援する原告豊川、同小林、同高森、訴外井上及び同芝崎らと東京本社から派遣された従業員との間で紛争が生じ、警察が出動するような事態に至り、さらに、同月二四日、豊橋支社においても、同支社従業員及びこれを支援する原告豊川、同渡辺、同小林、訴外井上、同芝崎及び同鈴木らと東京本社から派遣されて来た従業員との間で紛争が生じ、その中で、原告豊川が本社派遣従業員平田に対し灰皿を投げつけ、同人に全額部打撲傷の傷害を負わせるなどしたこと(右行為について原告豊川は傷害罪により罰金刑が確定している。)

(一〇)  同月二四日、被告名古屋支社へ新しく赴任した森支社長は原告吉田雅春、同杉木に名古屋支社への出社を命じたが両原告はこれに応じず、また、被告は同月一二日原告鈴木、同月一四日同山村にそれぞれ本社総務部付への転勤を命じたがいずれもこれを拒否したこと(原告鈴木、同山村の転勤命令拒否の点は当事者間に争いがない。)

(一一)  右経緯の中で、被告は原告らに対し、別紙支払総額等一覧表1のとおり同月一五日から同年三月三日にかけて懲戒解雇の意思表示をし(以下の事実は当事者間に争いがない。)、これに対し、原告豊川は、同月三〇日、学研の資金援助を受けて学研の学習教材の販売及び教室運営を目的とする株式会社総合教育振興会(以下「株式会社総教振」という。)を設立して代表取締役に就任し、原告高森及び同岸は同社の取締役に就任し、その余の原告らは同社の従業員となったこと

(一二)  原告らはいずれも被告から懲戒解雇されるまで自ら明示の退職の意思表示はしていないこと

<証拠>のうち右認定に反する部分はいずれも採用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。なお、被告は、学研が昭和五八年一月一二日原告豊川らと共謀のうえ被告のシェア乗っ取りを企てた旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

ところで、労働者が任意退職するにあたっては、必ずしも退職届けの提出等明示の退職の意思表示を必要とするものではなく、退職の意思をもって職務を完全に放棄し相当期間継続して出社しなくなるなど退職の意思が客観的に明らかになるような事実によって退職の黙示の意思表示の認定をすることは妨げられないものというべきであるが、その認定にあたっては労働者の地位を不安定ならしめることのないよう慎重さが要求されるものというべく、主観的に退職の意思を固めたとか、あるいは雇用主の利益に反する行為をしたというだけで黙示の退職の意思表示があったとはいえないことは当然である。

本件においては、前記認定による新会社設立及び同社への就職に至る経緯を総合すれば、原告豊川、同高森、同岸、同小林、同渡辺及び同後藤の六名については、同原告らが近々に被告を退職して独立する予定であったことは認められるものの、昭和五八年一月二六日から同年二月一一日までは被告事務所等において被告のために稼働しており、この間の時点で退職の意思が客観的に明らかになっているものともいえず、まだ被告を退社して新会社を設立する準備的段階のうちに被告から懲戒解雇されたものと認められる。また、その余の原告らについて見るに、同年二月一二日においては当時の上司である原告豊川らから独立の構想は示されたもののそれ以上に独立のための具体的な指示があったかどうかについては、これを認めるべき証拠もなく、結局、前記のとおり暫くは平静を保つようにとの指示を受けただけで、概して被告の事務所等において被告のために稼働していたのであり、これらのことからすると、同原告らが被告から懲戒解雇された時点までに退職する意思を固めていたとは認めることができない。たしかに前記の京都、豊橋両支社において警察が介入するような紛争が発生したが、これを被告主張のような乗っ取り工作というよりは、むしろ被告の内部紛争の中で、原告豊川を中心とする原告らがその勢力を誇示しようとしたことから起ったものであり、さらに、同原告らは最終的には株式会社総教振に入社しているが、これを被告から懲戒解雇されたことが大きな契機となっているものということができるのである。以上のことからして同原告らは被告主張の時点において被告を任意退職する意思を有していたとも右意思を客観的行為により実現したものと評価することもできないから、この点の被告の主張は認められない。

3  次に、被告が原告らに対し懲戒解雇の意思表示をしたことは当事者間に争いがないところ、被告は、本件解雇は懲戒解雇であって、労基法二〇条一項但書後段所定の労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合に該当するから、予告手当及び附加金の支払義務はない旨主張し、原告らは右懲戒解雇の効力を争うので検討する。

(一)  原告豊川に対する懲戒解雇について

前記2の認定によれば、原告豊川は、被告の中部地区(名古屋、豊橋、三重、京都の各支社)を統轄する中部総局の最高責任者という地位にありながら、被告から独立して新会社を設立し、学研の教材販売及び教室運営という被告と完全に競合する営業を展開し、更に、被告中部総局の最高責任者という自己の権限及び部下に対する事実上の影響力を利用して被告中部地区傘下の従業員を大量に引き抜き、被告の組織をそのまま自己の新会社に利用しようと企て、昭和五八年一月二六日、被告中部地区の幹部職員である原告高森、同岸、同小林、同渡辺及び同後藤に対し右計画に参加するよう勧誘してその協力を取りつけ、右計画実現のための具体的方法の検討をしたうえ、同年二月一一日、被告支社長会議において、被告松田社長から従来取り扱ってきた学研の商品から他社商品へ転換し、学研の影響力から離脱する旨の方針が発表されるや、これを奇貨として右方針に対し反対の意向を表明して右会議を中途退席し、帰名するや中部総局傘下の営業関係のほぼ全従業員を招集して、同月一二日、右従業員らに対し、自己の独立計画を発表するとともに右計画への参加を呼びかけ、加えて、被告の転勤命令を拒否してこれに応じなかったものである。

このように、原告豊川は、被告の最高級の幹部職員であり、被告に対する高度の忠実義務を負うものと解されるところ、在職中に、被告の営業と完全に競合して、同一の学研商品を同一の方法で販売することを企て、その意図の下に被告の基本的な経営方針に反対の意向を表明して重要な会議中に自己の職務を放棄して無断で中途退席し、更に、自己の被告における地位を利用して部下の従業員らに対する大量引き抜きを図ったものであり、これが実現されれば被告に重大な損害を与えることは明らかであり、これに対処するために被告のとった同原告に対する本社総務部への配置換えはその必要性が十分首肯できる正当なものであるから、これら同原告の一連の行動は被告に対する重大な忠実義務違反であると評価することができ、被告就業規則四二条(懲戒解雇の基準)の三(故意に会社の服務規定その他諸規則・通達に違反したとき)、五(上司の命令に従わず職場秩序を乱したとき)の各号に該当するものであって同原告に対する懲戒解雇は有効なものというべきである。

(二)  原告高森、同岸、同小林、同渡辺及び同後藤に対する懲戒解雇について

右原告らが、いずれも被告の支社長、課長、課長代理という幹部職員であることは当事者間に争いがないところ、昭和五八年一月二六日、前記(一)の原告豊川の独立計画に賛同して右計画に参加し、原告高森及び同岸は、同年二月一一日の前記支社長会議において原告豊川に同調して同一行動をとって右会議を中途退席し、帰名後、原告豊川と共に被告中部総局傘下従業員を招集し、原告小林、同渡辺及び同後藤もこれに協力したものであり、更に、原告小林及び同後藤は、同月一九日の前記京都支社における紛争において、同支社従業員でもないのに同支社に押しかけて右紛争に関与し、原告渡辺は、同月二四日の前記豊橋支社における紛争において、同支社従業員でもないのに同支社に押しかけて右紛争に関与した他、原告高森、同岸については、原告豊川と同様に被告の正当な転勤命令を拒否し、これに応じなかったものである。

このように、右原告らは、原告豊川の前記独立計画に賛同して同原告に同調して行動を共にし、支社長会議において公然と反旗をひるがえし、あるいは幹部職員である自己の被告における地位を利用して同月一二日の前記集会の招集のために部下の被告従業員を勧誘し、または京都、豊橋両支社における紛争に直接関与するなど具体的働きかけを行い、あまっさえ原告高森、同岸は転勤命令に従わなかったものであるから、右原告らの幹部職員としての地位に鑑みるとその忠実義務違反を軽視することはできず、被告就業規則四二条(懲戒解雇の基準)の三(故意に会社の服務規定その他諸規則・通達に違反したとき)、五(上司の命令に従わず職場秩序を乱したとき)の各号に該当するものといわざるを得ない。従って、前記原告五名に対する懲戒解雇は有効なものというべきである。

(三)  原告鈴木、同山村、同吉田雅春及び同杉木に対する懲戒解雇について

前記2の認定によれば、右原告四名は二月一二日の集会に参加していたものであるが、上司である原告豊川らの指示により参加したにすぎないのであって、同日以降も概して平常通り各自の勤務地において被告のために稼働していたものであり、前記原告豊川らの独立計画に賛同して具体的な行動を起こし、積極的に被告のために不利益な行為をなし、または被告の職場秩序を乱したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

原告鈴木及び同山村が本社総務部付を命じられ、右両原告がこれを拒否したことは当事者間に争いがないところであるが、右配転命令は、被告が原告豊川らの行動により組織防衛上の危機感に駆られ、業務上の必要が存したわけでもないのに、初めから右原告らが右配転命令に応じ難いことを見越したうえ、同原告らを懲戒解雇する前提として発したものと認められるから、右配転命令違反をもって懲戒解雇事由に該当するものということはできない。また、同吉田雅春、同杉木についても、右出社命令の前提として、同原告らが出社して平常どおりの勤務に就いていなかったとの事実を認めるべき証拠がない以上、同原告らに懲戒解雇事由が存したとすることはできない。

(四)  原告村山、同前田、同菊田、同吉良、同吉田章雄、同雨森、同今永、同奥村幸一、同太田、同光藤、同窪添、同高向及び同長谷川に対する懲戒解雇について

前記2の認定によれば、右原告一三名は二月一二日の前記集会に参加していたものであるが、上司である原告豊川及び同岸の指示により参加したにすぎないのであって、同日以降も京都支社において概して平常通り被告のために稼働していたものであり、前記原告豊川らの独立計画に賛同して具体的に行動を起こし、積極的に被告のために不利益な行為をなしたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

被告が懲戒解雇の理由とした同月一九日の京都支社における紛争については、右原告らがその場に立ち会って関与していたものであることは前記2のとおりであるが、各原告それぞれがいかなる意図及び謀議のもとにいかなる行動をとったのか必らずしも定かでなく、また、右原告らが、被告主張のように京都支社の組織を乗っ取る意図を有していたと認めるに足りる証拠はないのであり、右紛争は、前記2の(九)のとおり東京本社から派遣されてきた被告従業員に対する京都支社従業員の反感と上司であった原告豊川及び同岸の懲戒解雇に対する反感が、原告豊川ら幹部の勢力誇示活動に呼応してかような行動となって現れたものであることがうかがえるものである。

右行動を全体的かつ形式的に見れば、一応被告就業規則四二条(懲戒解雇の基準)の三(故意に会社の服務規程その他諸規則・通達に違反したとき)、五(上司の命令にしたがわず職場秩序を乱したとき)、七(故意に業務の進行を妨害したとき)の各号に該当することを否定しさることはできないものの、各原告の具体的非違行為の内容及び意図を確定できず、被告主張のように右原告らが京都支社乗っ取りを企て、共謀のうえ、計画的に右紛争を惹起せしめたと認めるに足りる証拠のない情況のもとでは、被告が右原告らに対し、直ちに右懲戒事由に該当するとして懲戒解雇をなしたのは、前記原告豊川らによって引き起こされた混乱を収拾するという被告の組織防衛上の利益を優先した苛酷な処分であり、処分の均衡を失して権利の濫用といわざるを得ない。

従って、右原告らに対する本件解雇はいずれも無効である。

(五)  原告服部、同伊藤、同杉田、同細川及び同井出に対する懲戒解雇について

前記2の認定によれば、右原告五名は二月一二日の前記集会に参加していたものであるが、上司である原告豊川及び同高森の指示により参加したにすぎないのであって、同日以降も豊橋支社において概して平常通り被告のために稼働していたものであり、前記原告豊川らの独立計画に賛同して具体的に行動を起こし、積極的に被告のために不利益な行為をなしたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

被告が、懲戒解雇の理由とした同月二四日の豊橋支社における紛争については、右原告らがその場に立ち会って関与していたものであることは前記2のとおりであるが、各原告がいかなる意図及び謀議のもとにいかなる行動をとったのか必らずしも定かでなく、また、右原告らが、被告主張のように豊橋支社の組織を乗っ取る意図を有していたと認めるに足りる証拠はないのであり、右紛争は、前記2の(九)の京都支社の場合と同様の理由から発生したものであることがうかがえるものである。また、右紛争において原告豊川の暴行により被告派遣従業員平田が前示傷害を負ったものであるが、右傷害について右原告らが共謀したと認めるに足りる証拠はない。

右行動を全体的かつ形式的に見れば、一応被告就業規則四二条(懲戒解雇の基準)の三(故意に会社の服務規程その他諸規則・通達に違反したとき)、五(上司の命令にしたがわず職場秩序を乱したとき)、七(故意に業務の進行を妨害したとき)の各号に該当することを否定しさることはできないものの、各原告の具体的非違行為の内容及び意図を確定し得ず、被告主張のように右原告らが豊橋支社乗っ取りを企て、共謀のうえ、計画的に右紛争を惹起せしめたと認めるに足りる証拠のない情況のもとでは、被告が右原告らに対し、直ちに右懲戒事由に該当するとして懲戒解雇をなしたのは、前記原告豊川らによって引き起こされた混乱を収拾するという被告の組織防衛上の利益を優先した苛酷な処分であり、処分の均衡を失して権利の濫用といわざるを得ない。

従って、右原告らに対する本件解雇はいずれも無効である。

4 以上により、まず、原告豊川、同高森、同岸、同渡辺及び同後藤に対する各懲戒解雇は有効なものであるから、右各懲戒解雇は労基法二〇条一項但書後段所定の労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合に該当するものであり、被告が右原告六名に対し、同法二〇条一項本文所定の解雇予告手当の支払をすべき義務はないものである。なお、原告らは、被告が解雇予告手当の不払について同法二〇条三項所定の行政官庁の認定を受けていない旨主張するが、右行政官庁の認定は解雇予告手当不払のための効力要件ではないものと解されるから、原告らの右主張は理由がない。

従って、右原告六名については被告に対し同法一一四条による附加金の支払を命じるべき場合でもないものである。

右のとおりであるから、これら原告六名についての解雇予告手当及び附加金の請求は理由がない。

5 その余の原告らに対する各懲戒解雇は無効なものであるところ、一般に懲戒解雇の意思表示につき、これを通常解雇の意思表示への転換を認めることは、被解雇者の地位を著しく不安定にするものであるから許されないと解すべきであるが、本件においては、被解雇者である原告ら自身が通常解雇の限度でその効力を争わないものであり、被告もこの点について特に異論を述べないものであるから、右原告らに対する懲戒解雇について通常解雇の限度でその効力を認めるのが相当である。

そうすると、右原告らに対する本件解雇は、労基法二〇条一項但書後段所定の労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合に該当しないことは明らかであるから、被告は右原告らに対し、同法二〇条一項本文所定の解雇予告手当を支払うべき義務があるものというべきである。

更に、被告が右解雇予告手当を支払っていないこともまた明らかであるから、当裁判所は、右原告らの請求に基づき、被告に対し、右解雇予告手当と同額の附加金の支払を命じるのが相当である。

6  そこで、前記5の原告らに対する解雇予告手当及び附加金の額について検討するに、<証拠>によれば、右原告らの賃金は月給制であり、各賃金締切日は別紙支払総額等一覧表2の締切日欄記載のとおりであり、右原告らの解雇日は同一覧表の解雇日欄記載のとおり(ただし昭和五八年)であるから、右各解雇日の直前の賃金締切日以前三箇月間の日数は同一覧表の日数欄記載のとおりであり、右期間の支払賃金総額は同一覧表の支払総額欄記載のとおりであることが認められる。なお、支払賃金については、基本給に諸手当(ただし、交通費は通勤に要する費用の実費であって労働の対価とは認められないから、これを除く)。を加えた合計額であり、所得税及び社会保険料等を控除する以前の金額である。また、原告杉田、同吉田雅春、同光藤、同窪添、同高向及び同長谷川については、各入社日から解雇日直前の賃金締切日まで三箇月未満であるため、右入社日から解雇日直前の賃金締切日までの期間の支払賃金総額及び日数を算定の基礎とするものとし、原告細川、同杉木、同吉田雅春及び同山村については、解雇日直前の賃金締切日がいずれも被告主張の任意退職日(昭和五八年二月一二日)以降であり、右賃金締切日以前一箇月の期間について被告が現実に支払った賃金額は後述のように不足しているものであるから、解雇日直前の賃金締切日から一か月逆上った賃金締切日以前三箇月間の平均賃金を算出し、右平均賃金から解雇日直前の賃金締切日以前一箇月間の被告が支払うべき賃金総額を算出し、右賃金額を前提として解雇日直前の賃金締切日以前三箇月間の支払賃金総額を算出したものである。原告細川については、更に、昭和五七年一一月二一日から同年一二月二〇日までの期間の支払賃金を認定するための直接の資料を欠いているため、同月二一日から昭和五八年一月二〇日までの期間の平均賃金を算出し、右平均賃金に前記直接的認定資料を欠く期間の日数を乗じて同期間の支払賃金額を推認したものである。

そして、前記支払賃金総額を前記期間の日数で除して同一覧表の平均賃金欄記載のとおり平均賃金を算出し、右平均賃金に三〇日を乗ずると解雇予告手当金額及び右同額の附加金額を算出することができるものである。ただし、原告長谷川については、右方式による算出額が別紙支払総額等一覧表1の解雇予告手当欄及び附加金欄記載の主張額を超えるため右主張の限度で認定することとする。

従って、前記原告らに対する解雇予告手当金額及び附加金額は、別紙支払総額等一覧表2の解雇予告手当欄及び附加金欄記載のとおりであることが認められる。

7  原告細川及び同井出を除くその余の原告らは、各解雇日直前の賃金締切日の翌日(原告杉木、同吉田雅春及び同山村については右賃金締切日から一か月逆上った賃金締切日の翌日)から右解雇日までの賃金について未払分がある旨主張し、被告は、原告豊川、同高森、同岸、同渡辺及び同後藤については右期間の賃金を支払っていないことを自認し、その余の原告については完済している旨主張するので検討するに、前掲各証拠によれば、被告が右原告豊川他五名を除くその余の原告らに対し、右期間の賃金として別紙支払総額等一覧表2の既払金欄記載の金員(ただし、所得税及び社会保険料等を控除する以前の金額でかつ実費である交通費を除く。)を支払ったことは認められるものの、右金額算定の根拠は定かではなく、また、証人奥村弘の証言によると、二月一二日以降原告らに対し学研から金員が支払われたかに窺われるものの、雇用関係のない学研からの支払が原告らに対する賃金の支払とならないことは当然である。そして前掲各証拠によれば、右原告らの大部分を占める営業職の賃金は、固定給及び歩合給から成っているものであるところ、被告はそのうち固定給相当分のみを支払い、歩合給相当分については支払っていないことが窺える。歩合給は、営業職員である右原告らの売上に応じて支給されるものであるところ、各原告の売上実績については直接的な資料が欠けているためこれを認定するには困難が伴うものである。そこで、右期間中、右原告らが概して平常通り稼働していたことは前示のとおりであり、右原告らの売上実績が減少したと認めるに足りる証拠もないから、右期間中の右原告らの売上実績がそれ以前の売上実績と少なくとも同等であったものと推認することができ、そこで、右原告らは固定給及び歩合給を合わせて少なくとも一日当たり前記6で認定した平均賃金程度の収入があったものと推認するのが相当であり、これに別紙支払総額等一覧表2の未払期間欄記載の日数を乗じて右期間中の右原告らに支払われるべき賃金を算出することができる。ただし、原告長谷川については、右方式による算出額が別紙支払総額等一覧表1の賃金欄記載の主張額を超えるので右主張の限度で賃金額を認定することとする。

なお、右原告らのうち事務職員の賃金については歩合制をとっていないものであるが、同原告らに対する支給額の算定根拠についても前示のとおり定かでないところであるから、営業職の原告らと同様に従前の平均賃金から推認し、算出するのが相当である。

また、原告豊川、同高森、同岸、同小林、同渡辺及び同後藤についても前掲各証拠によれば別紙支払総額等一覧表2のとおり締切日、支払総額、日数を認めることができるのであり、前記6の判示と同様の方式により同一覧表の平均賃金欄記載のとおり平均賃金を算出し、これに前同様にして同一覧表の未払期間欄記載の日数を乗じて右期間中の右原告らに支払われるべき賃金を算出することができるのであるが、前記認定事実に照せば、原告豊川、同高森、同岸の三人が二月一二日以降同月一五日に解雇されるまでの四日間被告のために就労して労務を提供したとは認められず、また、原告小林、同後藤は同月一九日に京都へ出掛けて京都支社における紛争に加わり、同渡辺も同月二四日に豊橋へ出掛け豊橋支社における紛争に加わっていずれも就労していないから、これらの日の賃金の支給をうけることはできないといわねばならない。

従って、原告細川及び同井出を除くその余の別紙支払総額等一覧表2の記載の原告らのうち、原告豊川、同高森、同岸、同小林、同後藤、同渡辺以外の原告らについては、同一覧表の賃金欄記載の金員から既払金欄記載の金員を控除した未払賃金欄の金員を請求する権利がある。また、原告豊川、同高森、同岸については四日間、同小林、同後藤、同渡辺については、一日間を同一覧表の未払期間から差引いた期間分の賃金を請求する権利がある。

8  ところで、原告西、同野末、同大河、同奥野及び同永田は、当裁判所に対し、それぞれ本訴についての取下書を提出し、その後、これを撤回する旨申し出ているものであるが、訴の取下は純然たる訴訟行為であり、仮にその意思表示に瑕疵があったとしても、手続安定の要請上その無効、取消の主張は原則として許されないものであり、ただ、詐欺、脅迫などの刑事上処罰されるべき他人の行為により取下がなされた場合にのみ、民事訴訟法四二〇条一項五号の法意によりその効力を否定することができるものと解されるところ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五九ないし第六一号証及び証人奥村弘の証言によれば、右原告らが本訴を取り下げたのは、被告から反訴として多額の損害賠償請求をされており、これについて被告の勝訴の見込みが強いものであり、損害賠償債務の負担を免れたかったら本訴を取り下げるよう被告から働きかけを受けたことが一つの要因となっていることが認められるものの、刑事処罰の対象となるような詐欺、脅迫があったものとは到底認められないから、右本訴取下の取消ないし撤回は許されないものといわざるを得ない。

従って、右原告らの本訴は、取下により終了したものというべきであるが、同原告らは本件訴訟において右取下の効力を争うので、主文において取下による訴訟終了宣言をすることとする。

二反訴について

1  原告らの本案前の主張について

原告らは、本件反訴は民事訴訟法二三九条所定の要件を充足しない不適法なものであるから却下されるべきである旨主張するが、本訴において、原告らが解雇予告手当等の請求をなし、被告は、これに対する抗弁として、原告らを懲戒解雇した旨主張し、懲戒解雇事由として原告らの被告に対する忠実義務違反行為等を主張し、反訴において、被告は、右懲戒解雇事由である忠実義務違反行為等が債務不履行ないし不法行為を構成するとして右行為に基づく損害賠償を請求していることは記録上明らかであり、これらの点からすれば、本件反訴請求は本訴の防禦方法と牽連するものということができる。原告らは、被告の主張は荒唐無稽なものであり、被告の反訴提起は、本訴の訴訟進行を妨げ、原告らの訴訟遂行を事実上挫折させることを目的とした権利濫用である旨主張するが、本件反訴請求は、右のとおり本訴と牽連性を有するものであり、被告の主張が荒唐無稽なものであるとはいえず、被告の反訴請求が権利濫用であるということはできないから、右主張は失当である。

2  債務不履行について

原告らが被告の従業員であったことは当事者間に争いがないところ、従業員は、使用者に対し、就業規則を遵守し、使用者に対し労働契約上の債務を忠実に履行すべき義務を負うものであり、右義務に違反し、それに起因して使用者に損害を与えた場合には右損害を賠償すべきものということができる。そこで、原告らについて右損害賠償義務の有無について検討する。

(一)  原告豊川、同高森、同岸、同小林、同渡辺及び同後藤について

右原告らは、前記一の3の(一)、(二)の判示のように、いずれも被告の幹部職員であり、高度の忠実義務を負うものであるところ、被告から独立して被告と完全に競合する営業をすることを企図し、そのために被告における自己の権限及び事実上の影響力を利用して被告中部総局傘下の従業員を大量に引き抜き、被告の組織をそのまま自己の営業に利用しようと企て、共謀のうえ、原告豊川、同高森及び同岸において被告の支社長会議を中途退席し、右原告六名全員で被告中部総局傘下の従業員を招集して、原告豊川において右従業員らに対し右独立計画を発表してこれに対する参加を勧誘し、更に、前記一の2の認定のように京都、豊橋の各支社における紛争に積極的に関与し、原告豊川においては被告の派遣従業員に傷害を負わせているものである。

右原告らの右行為が被告に対する忠実義務に違反し、被告就業規則に違反することは前記一の3の(一)、(二)の判示のとおりであるから、この債務不履行に起因して発生した損害を賠償する義務がある。そこで、この点については更に検討する。

被告が損害として主張するところは、(1)学研教材販売額減少損、(2)これに伴う学研教材関係の学習塾生徒減少による入会金及び月謝収入減少損、(3)被告本社従業員派遣のための諸経費の三項目であるところ、被告は、従来の販売ないし収入実績から原告らの行為がなかりせば得られたであろう販売ないし収入額の見込を想定し、右想定額と現実の販売ないし収入額との差額を損害として主張するものであるが、そもそも一般に雇用関係において、労働者が労務提供義務に附随する忠実義務を怠ったような場合に、右義務違反と使用者に生じた営業不振等による損害との間に定型的な因果関係を認めることは困難であるうえ、前記一の2の認定によれば、被告と学研は右教材に関する専属販売契約を締結していたところ、被告は、右専属販売契約を破棄して漸次学研の影響力から離脱しようとしていたものであり、また、学研が被告の右意図を察知すれば取引を中止するなどの対抗措置を取ることもまた当然予想されるところであるから、右学研教材の売上及び学研教材関係の学習塾生徒数が従前の実績をそのまま維持していたであろうと推認することはできず、右(1)、(2)の減少は被告の経営方針に起因する蓋然性が高いものであるから、右原告らの行為と右(1)、(2)の損害との間に相当因果関係を認めるには証拠が十分でない。

また、右(3)の損害について、被告は、原告らの妨害行為から被告の組織を防衛するためには東京本社から従業員を派遣せざるを得ず、そのために右費用の出捐を余儀なくされた旨主張し、その証拠として乙第六号証の三を提出するのであるが、右書面には出張者の氏名、出張期間及びその費用が表としてまとめて記載されているだけであり、証人近藤克彦の証言によれば右表の記載内容は少なからず正確性を欠くものであり、そもそも右表及び証人三浦淳生の証言のみでは被告が右金員を出捐したこと自体認定することはできないばかりか、個々の出張についてその目的も定かでなく、どのような必要があって出張したのかさえも判然としないものである。そのうえ、右表には右原告ら解雇後の期間における出張の費用についても計上されているが、右原告らのいかなる債務不履行行為によるものかも説明されていないものである。そうすると、右(3)の損害については、結局、右原告らの行為との相当因果関係を認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ない。

(二)  その余の原告らについて

右原告らについては、前記一の3の(三)ないし(五)の判示のとおりであって、右(四)、(五)列記の原告らは前記京都、豊橋両支社における紛争に関与しているとはいえ、被告の組織を乗っ取るとの意思で共謀したとの事実は認められないのであるから、結局、右原告らが被告主張のような債務不履行行為をなしたものと認めることはできない。

(三)  従って、被告の債務不履行の主張は理由がない。

3  不法行為について

従業員が、その在職中に、使用者の営業組織を乗っ取り、その組織を利用して使用者と完全に競合する営業を展開することを企て、他の従業員にも右計画への参加を勧誘して従業員の大量引き抜きに着手するなどの準備行為をしたうえ、退職後に新会社を設立して右引き抜きを実行し、実際に使用者と完全に競合する営業を展開したことにより、使用者に損害を与えたとすれば、従業員の右行為は不法行為を構成する場合があるものというべきであり、前記二の2の(一)記載の原告らの本訴における判断で認定した一連の行動にはその違法性を問う余地が十分に存するのであるが、既に前記2で判示のとおり右原告らの行為と被告主張の損害との間の相当因果関係を認めることはできないのであるから、被告の主張は肯認できず、また、前記2の(二)記載の原告らの行為については未だ被告主張の如き違法な点を認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、被告の不法行為の主張は理由がないものである。

4  右判断のように被告の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、失当なものというべきである。

三以上により、本訴について、別紙認容債権目録記載の原告らは、被告に対し、本訴請求のうち、別紙支払総額等一覧表2の解雇予告手当欄、附加金欄及び未払賃金欄記載の各金員の合計である同目録の金額欄記載の金員並びにそのうち同一覧表の解雇予告手当欄及び未払賃金欄記載の各金員の合計である同目録の内金一欄記載の金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年九月一日から、同一覧表の附加金欄記載の金員である同目録の内金二欄記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから、これらを認容し、その余の請求は失当であるからこれらを棄却し、反訴について、被告の反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決し、なお、原告西、同野末、同大河、同奥野及び同永田の本訴は取下により終了したことを宣言する。

(裁判長裁判官宮本増 裁判官福田晧一 裁判官根本渉)

別紙

所属・地位一覧表

氏名

所属・地位

豊川正弘

中部総局局長代理

鈴木康代

同   管理課従業員

小林通和

名古屋支社第一営業部課長

高森茂樹

豊橋支社長

細川美代子

同   第一営業部管理課従業員

服部雅治

伊藤正則

同   第一営業部従業員

井出薫

同   第二営業部従業員

杉田謙一

同   第一営業部従業員

渡辺勲

三重支社営業部課長代理

杉本宏明

同   第一営業部従業員

吉田雅春

岸邦男

京都支社長

後藤栄治

同   第一営業部課長代理

村山弘幸

前田章彦

同   第一営業部課長代理

菊田勝洋

吉良俊英

吉田章雄

雨森悦裕

今永嘉明

奥村幸一

太田廣太郎

光藤昭夫

窪添満

高尚文男

長谷川一男

山村龍実

大阪支社管理課課長

西和次

豊橋支社第一営業部従業員

野末隆

大河敏宏

奥野昭

三重支社第一営業部従業員

永田寛治

京都支社第一営業部従業員

別紙認容債権目録<省略>

別紙就業規則

第四二条 (懲戒解雇の基準)

懲戒解雇の基準は次のとおりとする。

① 会社の指示するスケジュールに故意にしたがわないとき。

② 正当な理由のない無届欠勤が一〇日以上続いたとき。

③ 故意に会社の服務規程その他諸規則・通達に違反したとき。

④ 重要な経歴をいつわって採用されたとき。

⑤ 上司の命令にしたがわず職場秩序を乱したとき。

⑥ 他人に暴力脅迫を加えたとき。

⑦ 故意に業務の進行を妨害したとき。

⑧ 会社の承認がないのに在籍のまま他に雇い入れられたとき。

⑨ 業務上の機密をもらして、会社に不利益をもたらしたとき。

⑩ 会社の金品を不正に流用、私用したとき。

⑪ 職務に関して、不正の金品その他の利益をうけたとき。

⑫ 故意に会社に対して、著しい損害を与えたとき。

⑬ 懲戒をうけたのに、改める態度がみられないとき。

⑭ 人事異動発令後、一週間以内に新しい任務に服務しなかったとき。

⑮ その他、上記各号に準ずる行いがあったとき。

別紙支払総額等一覧表1、2<省略>

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